EICニュースレターNo.8


本号の目次
新しい数値計算のすすめ (檜山澄子)
地震研の速報メカニズム情報 (山中佳子)
EIC地震学ノートより抜粋 (菊地正幸・山中佳子
衛星テレメータの地震波形のリアルタイムモニタリング(鷹野澄)
最新地震カタログ情報 (鶴岡弘)


新しい数値計算のすすめ

檜山澄子


最近MATLABやMathematicaなどの科学計算用パッケージソフトがさかんに使われています。それらを動かすWSやPCの処理速度が非常に速くなったために、結構大きな問題でもそこそこの時間で解いてくれます。その上ソフトが安価で手に入るので、愛用者も多くなっています。もはやプログラミング教育や数値計算教育は不必要になったと考える風潮すら一部にはあります。

MATLABで連立方程式 Ax = b を解く場合、x =A b と書くだけで解 x が求まります。式通りには、A の逆行列A-1 を求めて b に掛けるという形です。もし、nxnの行列の逆行列を求めて解く場合には、n3+n2の演算回数が必要になります。これをガウスの消去法で解く場合、その1/3の演算回数で済みますから、逆行列を求めてそれを掛けるといった無駄なことは通常やりません。実際、MATLABでは、行列の形を調べて、正方行列のときにはガウス消去法で計算し、正方行列でない場合には,QR分解などの処理をして最小二乗解を出しています。つまり誰もが安易に使えるように、大変なオブラートでガードして、見かけ上簡単な数式と同じ記述にしているのです。

ところで、数値計算法はどこで身につけるのでしょう。多くの方は「計算機概論」や「情報科学通論」といった名前の授業で、UNIXの使い方やメールの出し方などと共に、プログラム教育を受け、その中の演習問題を通して数値計算を学びます。そこで使われる数値計算は、初心者にとってプログラムがし易いこと、アルゴリズムが簡単なことに重点がおかれます。扱う問題も、10×10以下といった小さな行列だったり、特異点のないなだらかな関数ばかりです。そのような問題をうまく解けたからといって、その解法を500×500次元の連立方程式に適用したら、時間がかかるだけでなく、丸め誤差の影響を受けて行列のたちが悪くなり、安易に倍精度にするだけでは解決できません。これは使ったアルゴリズムが悪いためです。アルゴリズムが悪ければ、いかに並列計算機やスパコンが速くなっても、計算不可能という事態にもなります。

計算機の進歩とともに数値計算も年々進歩しています。近年は大規模なシミュレーション計算が多くなったため、その問題専用に開発された解法が生み出され、ポピュラーになりつつあります。差分法による偏微分方程式の解法から、有限要素法、境界要素法、スペクトル法へと発展したこともそうですし、離散化した行列式を解く場合に、ガウスザイデル法、SOR法からマルチグリッド法に進歩したのもその好例でしょう。そのような新しいアルゴリズムを取り扱った数値計算の本も出版されています。筆者が一部担当した、『数値計算法』(オーム社、200ページ、\2,400)もその1つです。著者割引で15%OFFです。希望者はお申し越し下さい。10月中受付ます。


地震研の速報メカニズム情報

≪世界で起こった大地震の速報CMT解≫

地震研では、これまで世界で大地震が起きると自動的にIRIS DMCからデータを取得し、表面波を使ってCMT解(ERI AutoCMT解)を求めるシステムを開発し、その結果をメール及びホームページで公開をしてきました。ERI AutoCMT 解は、USGSから送られてくる震源速報をもとに広帯域地震波形を自動解析し得られたメカニズム解です。 速報的性格のものなので、震源情報などに大きな誤差があると実際の地震のメカニズムと大きく異なってしまうこともあります。解析に使われている観測点の数が少ない時や、variance reductionが 10%以下の場合は、信頼性が低いと考え下さい。中規模の地震 (6<Mw<7) については比較的良く決まっていますが、大地震(Mw>7.5)の場合はメカニズムが逆転してしまうことがありますので、見るときは注意して下さい。
  http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/~http/AUTO_CMT/Jauto_cmt.html

世界の地震に関しては、このほかにハーバード大学の速報CMT解、アメリカUSGSの速報CMT解が出されており、これらも以下のホームページでことができます。
  http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/EIC/CMT/Jcmt.html

今後、このページは地震毎に震源情報、各種メカニズム解などをまとめて見ることができるように大幅に模様替えする予定です。

≪日本で起こった地震の速報メカニズム解≫

上記の世界の速報CMTと同じ方法を用いて、日本で起こった大地震に対しても自動解析(ERI local CMT解)を行っています。ERI local CMT解は、日本全国に配備された広帯域地震計(FREESIA NET, ERIOS)の波形を自動解析し得られたメカニズム解です。気象庁からの震源速報をもとに解析を行っています。ただ、震源速報では秒の情報がないため、秒の情報を推定して解析を行っているため、実際の地震のメカニズムと大きく異なってしまうこともあります。
 先頃、これらのメカニズムについても、メールでの発信、ホームページでの公開を始めました。
  http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/CMTJ/local/index.html

≪関東で起こった地震の速報メカニズム解≫

ERI Kanto CMT解は、主に地震研によって関東に配備された広帯域地震計の波形を自動解析し得られたメカニズム解です(一部FREESIA NETのデータも使わせていただいております)。 ここでは実体波、表面波を用いてDreger氏の手法によってCMT解を求めています。マグニチュードが小さい地震に対しても解析を行っていますが、速報的解析なので実際の地震のメカニズムと異なることもあります。しかしMw>4.0程度の地震は比較的良くあっているようです。
 先頃、これらのメカニズムについても、メールでの発信、ホームページでの公開を始めました。
  http://www.eri.u-tokyo.ac.jp/CMTJ/NewCMT/index.html

なお、これらの情報はあくまで速報値であり、研究以外での目的での使用はしないようにお願いします。また、これらの情報をメールでほしいという方は、どの情報が欲しいかを明記の上、川勝(hitosi@eri.u-tokyo.ac.jp)または山中(sanchu@eri.u-tokyo.ac.jp)宛にご連絡下さい。


EIC地震学ノートより抜粋


最近起こった地震の中からとくに興味ある地震をとりあげます。

EIC地震学ノート No.49    Sep. 3, 98
遠地実体波解析
9月3日岩手県内陸北部の地震(Mj 6.1)


概略・特徴: 9月3日夕方岩手山西部で局所的にかなり強い揺れ(震度6弱)を記録しました。気象庁による震源諸元は次の通りです。

発生時刻 震央 深さ M
16:58 JT 39.8°N 141.0°E 7km 6.1
          
データ処理: IRIS-DMCのデータを地震研究所の準リアルタイムサービス (gopher) により収集しました。解析には9地点の広帯域地震計記録(P波上下動)を用いました。波形はかなりノイズに埋もれていますが、短時間の明瞭なパルスを呈しています。

結果:解析結果を図1に示します。主な震源パラメータは以下のとおりです。
走向、傾斜、すべり角= (216,41,131)(東西圧縮の逆断層)
地震モーメントMo=6.9 x10**17 Nm (Mw = 5.8)
破壊継続時間   T = 3.0 s
深さ(Centroid)  H = 2.5 km
断層長(双方向破壊伝播)L=2x2.5x2= 10km
断層面積  S = LxL/2 = 50 km**2
くいちがい D = Mo/μS = 0.5 m (μ=30 GPa)
応力降下  Δσ = 2.5Mo/S**1.5 = 4.9 MPa

解釈その他:観測点が偏っているため、メカニズム解の精度はよくありません。震源はかなり浅く、重心の深さは断層幅の半分程度です。断層が一部地表に達している可能性もあるのではないかと考えられます。  

(文責:菊地・山中)

(追記)新聞報道によると、この地震に伴って、雫石町西根で、南北約0.7kmの地表地震断層が出現、段差は約20cmで西側が東側に対して盛り上がっているとのことです。


衛星テレメータの地震波形のリアルタイムモニタリング


地震予知情報センターでは、衛星テレメータの地震波形データをリアルタイムでアナログ出力する装置を504号室に設置しました。衛星テレメータでは、地震波形はデジタル化してWinフォーマットにて転送されていますので、それをアナログに戻して従来のアナログレコーダを接続したものです。出力までのバッファリング遅延は通常は10〜90秒以下に設定するのですが今は事情により5分遅れに設定しています。

504号室に入って左から3台のドラム式記録装置では筑波、白木、室戸に設置されている広帯域地震計の
上下動成分を出力しています。また奥の2台の長時間レコーダの方では、現在注目されている飛騨地方と岩手県北部地方の短周期地震計の記録がモニタリングされています。お近くにきたとき、ついでに覗いてみて下さい。

なお本システムの保守は学生を中心としたボランティアの方が行っております。参加したい方はM2の八木君までご連絡下さい。


最新地震カタログ情報


ニュースレターNo.2で紹介したWWWを用いた地震活動解析システムで利用できる地震カタログの最新情報です.

JUNEC(全国地震観測網地震カタログ)
収録期間:1985/08/01〜1993/12/31
データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/data/junec/hypo/

NIED(防災科学研究所地震データ)
収録期間:1979/07/01〜1997/12/31
データ元:http://www.bosai.go.jp/center/eq-catalog/index-j.html

JMA(気象庁地震カタログ)
収録期間:1926/01/01〜1997/09/30
データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/data/jma/sokuho/

HARVARD(HARVARD大CMT地震データ)
 収録期間:1977/01/01〜1998/05/30
データ元:ftp://128.103.105.101/CMT/

ISC(ISC地震カタログ)
 収録期間:1964/01/01〜1994/12/31
データ元:ISC Catalogue 1964-1994(CD-ROM)

システムおよびデータに関する質問・要望等はtsuru@eri.u-tokyo.ac.jpまで
お願いします.