EICニュースレターNo.6


本号の目次
地下核実験と地震学 (阿部勝征)
EICのジョブクラスの変更について(鷹野澄).
地震学ノートより抜粋 (菊地正幸・山中佳子)
全国の高感度地震波形データベースの紹介(鷹野澄)
使って便利なソフトウェア(5)--f77コンパイラ・オプションーfast(桧山澄子)


地下核実験と地震学 阿部勝征

地下核実験と地震はどちらも地震波を放出するが、波の出かたに違いがある。それは、震源の運動に爆発とずれの違いがあることや破壊領域のサイズが違うことなどによる。そのため冷戦時代から今日まで非公開の核実験を地震波観測から探知識別したり、いかに波を隠すかといった研究が進められてきた。

1963年に部分的核実験禁止条約が結ばれたとき、アメリカは「世界標準地震計観測網」をつくり、東欧・旧ソ連を除く世界の120か所に短周期と長周期の地震計を設置した。戦略とはいえ、標準化された地震計で世界をカバーするということは、当時として画期的なことだった。得られた地震記録が核実験の探知に役立った例はわずかでも、地震=断層という新しい地震観とプレートテクトニクスという新しい地球観の確立に大きな貢献をした。標準観測網は1980年代に役目を終えた。1996年に国連は包括的核実験禁止条約を採択し、「実験がおこなわれていない」ことを検証するために、国際データセンター(IDC)を設置することにした。時代は変わって、観測は世界各国の協力で実施され、ディジタル波形記録はネットワークを通して転送され処理される。センターは近いうちにアメリカからウィーンに移る。そこの情報はIDCのホームページ(http://www.cdidc.org)にある。本情報センターはIDCと関わりをもったことがある。

実は、核探知は筆者へも影響を与えた。30年前の学生当時、新聞で知った探知識別法を五月祭で展示することにした。勉強のため本研究所を訪れ、テレメータ観測や群列観測という新しい技術に興味をもった。また、そこには新進気鋭の金森先生(当時30才)がおられた。それらが地震学の道を選んだきっかけになった。


EIC(Cray CS6400)のジョブクラスの変更について

5月12日に,EIC(Cray CS6400)のジョブクラスを以下のように変更致しました。これにより大型ジョブの利用が若干改善されると思います. ご意見等ございましたらeic_staff@eri.u-tokyo.ac.jpまでお寄せ下さい。
97/6/6以前 97/6/7〜98/5/12 98/5/12から
クラス 時間  人数 時間    人数 時間   人数
anne 0.5H   3 1H     2 同左
hika 5D    3 1D     3 同左
kodama 30D   1 20D    4 30D    3 ←変更
nozomi 20D   3 ー      ー 50D    2 ←追加

新人 紹介
名 前 竹内典子(たけうちのりこ)
趣 味 散歩・乗馬
よろしくお願いします。


EIC地震学ノートより抜粋

先月起こった地震の中からアフガニスタン北部の地震を取り上げます。数千人の死者が出た模様です。
【おわび】前回(No.5)本コーナーで南極大陸近傍の地震を取り上げた際、”昭和基地では棚から物が落ちるほどの揺れを感じたとの報道があった”と書きましたが、これは間違いでした。ゆれを感じたのはフランスの基地でした。

No.45               Jun 5, 98

5月30日アフガニスタンの地震(Ms 6.9)

概略・特徴: 5月30日10時52分(現地時間)、
アフガニスタン北部のタカール州からバダクシャン州にかけて地震が発生しました。報道によると、この地震で約5千人が死亡したとのことです。USGSの速報による震源諸元は次の通りです。
           
発生時刻 震央 深さ Ms
06:22:28 UT 37.21°N  69.93°E 35 km 6.9

データ処理:IRIS-DMCのデータを地震研究所の準リアルタイムサービス (gopher) により収集。解析には16地点の広帯域地震計記録(P波上下動)を用いました。見るからに波形は複雑で、4個のサブイベントを求めました。

結果:図1に解析結果を示します。4個のサブイベントはいずれも北北西-南南東圧縮のほとんど純粋な横ずれ型です。震源の拡がりは30km程度で、わずかながら北北東方向への破壊伝播が優勢です。全体についての震源パラメータは以下のとおりです。
走向,傾斜,すべり角(全体)= (198, 86, 6)
地震モーメント Mo = 7.4 x10**18 Nm  (Mw = 6.5)
破壊継続時間  T = 18 s
深さ(Centroid) H = 10 ± 3 km
断層面積 S = 30x10 km**2
くいちがい D = Mo/μS = 0.6 m   (剛性率μ=30 GPa)
応力降下 Δσ = 2.5Mo/S**1.5 =3.6 MPa

解釈その他:全体の応力降下は内陸の地震としては小さめですが、個々の小断層ごとで考えると局所的な応力降下は10MPaぐらいになります。震源はごく浅いこと、短周期の地震動が励起されたと推測されることなどが特徴です。
           
(文責:菊地・山中)


全国の高感度地震波形データベースの紹介


今回は、前回の新J-array地震波形データベースに引き続いて全国の地震観測・研究機関の研究者グループ「地震波形データ流通・新J-arrayシステム開発プロジェクト」による、高感度地震波形データベースについて紹介します。

我が国では、これまで地震予知計画のもとに、全国の9国立大学、気象庁、および、防災科学技術研究所において高感度地震計による地震観測が実施されております。研究グループは、データの活用と共同研究の促進のために、各機関の地震波形データを、インターネットにより公開するためのシステムを共同開発してきました。

高感度地震計の波形データは、サンプリングが100〜200Hzと高く、狙っている地震もローカルなものがほとんどであるため、全国的に一つの集中型データベースではなくて、各観測機関の分散管理型のデータベースとして整備するのが適当です。しかし利用者にとっては、データが分散していると使い勝手が悪い ため研究グループはWebを使ってどの機関にも共通にかつ簡単にアクセス可能にするという方針をたてました。
図1は、地震研究所の高感度地震波形データベースのイベント波形データを利用している例です。この図の左端に、「他機関の地震データの利用」という欄が見えています。利用者は、ここをクリックすることによって簡単に他の機関のデータベースにアクセス可能になっています。データの検策方法やダウンロードのフォーマットなどもすべて共通になっています。

利用可能なデータベースは、連続波形データベースと、各機関でトリガーがかかったイベント波形データベースです。

連続波形データベースは、最新のもののみが利用可能です。ディスク容量の関係で利用可能な期間はあまり長くありませんので、ほしいときにすぐにダウンロードすることをお勧めします。イベント波形データベースは、ほしい期間を指定してトリガーリストを検索して利用します。図1のように、波形をプレビューしたり必要なデータをさらに絞り込んで検索しダウンロードすることなどが可能です。利用可能な期間は、大学によって事情が違いますが、最新のものはすべて利用可能です。古いものほど提供困難になっていますので、ご理解をお願いします。

現在表1に示した各大学において、高感度地震波形データベースが利用可能となっています。

このホームページに入るとユーザ登録の画面が出てきます。一度登録すると同じIDを入れることで以降省略できます。 ユーザ登録が済むと、利用上の注意が出ますのでよく読んで利用してください。ここで、注意して頂きたいのは、研究者個人がデータを見たりダウンロードすることに制限はありませんが、それを研究に利用する場合は利用申請をして頂くということです。利用申請は、「利用申込書」をクリックして申請フォームに記入していただくだけですので簡単です。申請書はデータ提供機関に転送され共同研究などの照会がされます。その結果は電子メールで通知されますのでメールアドレスは正しく記入してください。

表1の各大学では今は第2世代のデータ公開システムが運用開始しており、衛星テレメータシステムを利用して、周辺のより多くの観測点の高感度地震波形データを利用可能にしています。また、気象庁とのデータ交換により、気象庁の各管区の観測点の地震波形データも各大学のデータベースに含まれて利用可能になっています。大学によっては、防災科学研究所や地方自治体などとのデータ交換によるデータも提供しています。まだいろいろと不具合がありますがご利用になって何かお気づきの点は、各大学の問い合わせ先かもしくは本センターの鷹野、山中、鶴岡までお知らせください。

表1
北海道大学理学部 http://hkdpub.eos.hokudai.ac.jp/data_service/
弘前大学理工学部 http://hrspub.geo.hirosaki-u.ac.jp/data_service/
東北大学理学部 http://thkpub.aob.geophys.tohoku.ac.jp/data_service/
東京大学地震研究所 http://tkypub.eri.u-tokyo.ac.jp/data_service/
名古屋大学理学部 http://ngypub.seis.nagoya-u.ac.jp/data_service/
京都大学防災研究所 http://ujipub.rcep.dpri.kyoto-u.ac.jp/data_service/
高知大学理学部 http://kchpub.cc.kochi-u.ac.jp/data_service/
九州大学理学部 http://www.sevo.kyushu-u.ac.jp/data_service/
鹿児島大学理学部 http://noev.sci.kagoshima-u.ac.jp/data_service/


使って便利なソフトウエア(5)f77コンパイラ・オプション-fast

今回は趣向を変え、知っていると大変便利なf77コンパイラ・オプション-fastの話をします。

並列化したいが、どうしても自動並列化できないため、EICを使うのをあきらめたとか、やむ無くTSSで走らせたといった経験をお持ちの方がおいでではないかと思います。そうしたとき、f77からapogee Fortranコンパイラに変えて試みるとか、自動並列化に頼らずがんばって自分でプラグマ(指示子)を書いて、積極的に(-explicitpar)並列化を計るという手法が考えられます。しかし、そうやったところで、計算結果が正しくなかったり、思ったようにパフォーマンスが得られず、結局努力の割には報われない結果で、わずらわしい思いをしただけという方もおいででしょう。

そのようなときの「お助けマン」が、以下に述べるf77コンパイラー.オプションの-fastです.これは最適化を行う機能のオプションです。最適化を行うオプションは、他に-Oxがありますが、この-fastは更に強力で、特に浮動小数点演算に最適なコードを出してくれます。-fastを書けば自動的に-O3も指定したことになります.私の経験では2倍から4倍くらいの高速化が得られています.また、-fast -O4 (-O4 -fastの順でない)とすると、サブルーチンで更に効果を発揮します。 並列化出来ないからとEICを使うのを止める前に、是非このオプションを入れて試してみて下さい.これは勿論最適化のオプションですから、並列化できる場合には、並列化オプション-autoparと併用すれば、相乗効果がえられます。
<使用例> f77 -o 実行ファイル名 -fast -O4 プログラム.f (並列化出来ないジョブ)
        f77 -o 実行ファイル名 -fast -O4 -autopar プログラム.f (並列化ジョブ)