目 次 

2004年9月紀伊半島南東沖の地震
(阿部勝征)
紀伊半島南東沖地震の広帯域地震計の波形
(鷹野 澄)
広帯域地震計が捉えた浅間山噴火の様子
(鷹野 澄)
VAST並列化支援ツール(VAST-F/とOpenMP)
(鶴岡 弘)
EIC並列計算機OSの更新について
(鶴岡 弘)
最新地震カタログ情報
(鶴岡 弘)
 コラム


 2004年9月紀伊半島南東沖の地震

 2004年9月5日23時57分に紀伊半島南東沖でM7.4の地震が発生し,三重県,和歌山県,奈良県の一部で震度5弱を観測した.気象庁は,「1mの津波が予想される」として三重県南部などに津波警報を出した.串本で高さ0.9m,神津島で高さ0.8mなど,伊豆諸島から四国にかけての太平洋沿岸で津波が観測された.この約5時間前の19時07分には,本震の西南西約40kmでM6.9の前震が発生し,神津島で高さ0.5mの津波を記録した.一連の地震活動は,前震・本震・余震型で推移し,8日には余震域の東端でM6.5の最大余震が発生した.前震と本震による津波のMtはそれぞれ7.2と7.4である.  余震域は紀伊半島南東沖約100kmの南海トラフ付近の約50km四方に分布している.前震や本震,最大余震のメカニズムは南北方向に圧力軸をもつ逆断層運動である.推定される断層面がプレートの境界面に比べて高角であることから,これらはフィリピン海プレート内の地震と考えられる.なお,都司さんらの古文書調査によると,今回と似たような地震・津波が安政東海地震から46年前の1808年に起きている.  今回の地震により,10府県で転倒するなどして42人のけが人が出た.三重県と和歌山県では,漁船や小型船舶が津波で転覆,沈没した.  6日に開かれた政府の臨時地震調査委員会は,「今回の地震活動が東南海地震に与える直接的な影響はないと考えられる」との見解を発表した.これは,震源域とメカニズムが異なることから,想定東南海地震が直ちに発生するという積極的かつ合理的な根拠が見あたらないとも解釈できる.とはいえ,想定東南海地震については,今から30年以内の発生確率は60%と高いことに注意を払う必要がある.  防災上の問題点を一つあげておく.M7.4の地震の直後に津波警報が出たが,それにも係わらず避難勧告を出さなかった自治体があった,昨年9月の十勝沖地震でも同様の問題点が指摘され,総務省消防庁は警報発令後の迅速な勧告発令を求めていた.人命が係わるだけに,自治体は,津波警報発表と同時に避難勧告を発令できるように地域防災計画を定めておくことが必要である.来るべき東南海・南海地震では大きな津波災害が予測されていることから,行政側も住民側もふだんから津波意識を高めておかなければならない.

紀伊半島南東沖地震の広帯域地震計の波形記録
地震予知情報センターでは、地震地殻変動観測センターの協力のもと、広島地震観測所の白木観測点(旧白木観測所:SHK)と室戸地殻変動観測所(MRMJ)に広帯域地震計を設置している。

図1 観測点(SHK,MRMJ)と前震・本震・余震の位置関係 

 2004年9月5日の紀伊半島南東沖地震の際に、白木観測点において観測された前震、本震と二つの大きな余震の波形記録を図2に示した。振幅のスケールを同じにしたので、4つの地震の大きさの違いがよくわかると思う。

図2 前震・本震・余震の波形 (上下動成分)
 

9月7日(M6.4)と9月8日(M6.5:最大余震)の二つの余震はほぼ同じ規模だが、9月7日の地震の方が最初の部分の振幅がやや大きいことや、9月8日の地震にはほかの地震の記録に見られるような高周波成分があまり見られない低周波成分の卓越した地震であったことなどがわかる。
 このように、近接した場所の同じ規模の地震であっても、よく見ると二つの余震の違いが波形から読み取れて興味深い。
(地震研特集ページ「紀伊半島南東沖地震」もご参照ください。)

広帯域地震計が捉えた浅間山噴火の様子
 地震予知情報センターでは、火山噴火研究推進センターの協力のもと、2001年9月から浅間火山観測所(AVO)に広帯域地震計を設置している。この地震計が捉えた浅間山噴火の様子を紹介する。観測点の位置を図1に示す。

図1 浅間山と観測点(AVO)の位置関係
国土地理院発行の数値地図25000(地図画像)、数値地図25000(行政界・海岸線)、
数値地図25000 (地名・公共施設) 及び数値地図50mメッシュ(標高)を使用
(日本地図センター25000段彩・陰影画像に加筆)
2004年9月1日20時02分の浅間山噴火の際に、広帯域地震計が観測した波形を図2に示す。 図2を良く見ると、最初は、ゆっくりした波(低周波成分)が卓越しており、その後12秒ぐらいしてから、高い周波数の波(高周波成分)が多く含まれるようになる。この高周波成分は、爆発的な噴火によるものと考えられる為、噴火後暫くしてから爆発的な噴火が発生したものと推察される。

図2 浅間山噴火 04/09/01 20:02ころの広帯域地震計記録(1分間)
 次の図3は、2004年9月16日の1日分のモニター記録である。この前日の15日頃から小規模な噴火が頻発し始めて、16日には山頂で噴火が連続的に発生した。図3のモニター記録を見ると、16日の朝6時ごろから多数の地震(噴火)が連続的に発生して、夜までずっと続いていたことがわかる。
(地震研特集ページ「2004年浅間山噴火」もご参照ください。)

図3 広帯域地震計が捉えた9月16日の連続的な噴火の様子

 


VAST 並列化支援ツール(VAST-F/とOpenMP)の紹介

 eic のコンパイラには自動並列化オプション(-parallel)がありましたが,並列化したコードをあまり生成できていませんでした.そのため,ユーザが複数CPUを利用するためには,MPIでプログラムをコーディングする.あるいは,OpenMPの並列化指示子をプログラム中に明示的に挿入することによって並列化することが必要でした.プログラムVAST-F/toOpenMP は,プログラムの並列実行構造を自動解析し,OpenMPディレクティブをプログラムに挿入し,並列実行可能なコードを出力します.ユーザは,VAST-F/toOpenMPの出力する変換コードを使用し,OpenMP対応の並列コンパイラ(ifort=efc)によって高度な自動並列処理が可能となっています.また,OpenMPディレクティブを挿入するだけでなく,Fortranプログラムの実効性能を向上させるプログラムの最適化も行うことができます.
 基本的な使い方は以下のようになります.たとえば,program1.f というソースプログラムを並列化する場合は次のように実行します.
% vastfomp program.f
これにより,Vprogram.f という並列化されたコードが出力されます.この出力されたコードをコンパイルすることにより,並列実行可能なモジュール(a.out)が作成されます.
% ifort -openmp Vprogram.f
以下がvastfompによって生成されたコードです.青いテキストの部分が自動挿入されています.
 VAST には,その他並列化を促進させる多くのオプションやディレクティブがあります.インライン展開による並列化(-J)オプションなどはうまく並列化できない場合に利用すると並列化可能となる場合があるようです.VASTを利用することによって簡単に並列化プログラムが作成できます.Bクラスにジョブを投入している方は是非お試しください.
PROGRAM Sampl e_Program_1
IMPLICIT NONE
INTEGER, PARAMETER :: N=8192
INTEGER :: i,j
REAL(kind=8) :: a(N,N), b(N,N)
REAL(kind=8) :: C1, sum
C1 = 2.0D0; call random_number(a); call random_number(b);
!$OMP PARALLEL IF (N .GT. 16)
!$OMP DO
DO J = 1, N
DO I = 1, N
A(I,J) = A(I,J) + SIN(DBLE(I))*B(I,J)
END DO
END DO
sum = 0.0D0
!$OMP DO REDUCTION(+:SUM)
DO I = 1, N
SUM = SUM + A(I,I)
END DO
!$OMP END PARALLEL
print *, sum
END PROGRAM Sample_Program_1

コ ラ ム
ニュースレターNo33において,プログラムの並列化度を求める方法をご紹介しましたが,qstat にて標準で確認できるようになりました.複数CPUを利用したプログラムの場合には,ジョブ投入後qstatを用いて並列化度の確認をお願いします.

 


EIC並列計算機OS更新について
 9月2日にEIC計算機群(eic,eich,eicp)のOS,コンパイラおよびライブラリのバージョンアップ作業を実施しました.また,利用者端末(eicXX)については,コンパイラのバージョンアップを実施しました.バージョンアップによって表1のようにそれぞれ更新しています.

表1. 更新状況

EIC計算機群(eic,eich,eicp)

バージョンアップ前 バージョンアップ後
OS Pro Pack 2.2.1 2.4
コンパイラ 7.1 8
IMSLライブラリ 4.0.1 5.0
MKLライブラリ 5.2.3 7.0.17

 

利用者端末(eicXX)

バージョンアップ前 バージョンアップ後
コンパイラ 7.1 8

Fortranコンパイラ8.0においては,logical型およびダイレクトアクセス長の標準が7.1とは異なっていますが,システムとしては7.1と同じように設定を行っていますので,これまでと同様に利用できます.なお,ジョブ投入の際には,プログラムの再コンパイルを行って投入していただくようお願いします.

 

最新地震カタログ情報
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/db/index-j.htmlで利用できる地震カタログの最新情報です.
●JUNEC(全国地震観測網地震カタログ) 
 収録期間:1985/07/01〜1998/12/31  
 データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/pub/data/junec/hypo/
●NIED(防災科学技術研究所地震カタログ)  
 収録期間:1979/07/01〜2003/06/30  
 データ元:http://www.bosai.go.jp/center/kanto-tokai/data/index.html
●JMA(気象庁地震カタログ)  
 収録期間:1926/01/01〜1997/09/30  
 データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/pub/data/jma/geppo/
●JMA(気象庁一元化震源データ)
 収録期間:1923/10/01〜2004/02/29 (確定値) 
 データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/pub/data/jma/mirror/JMA_HYP/ 
 *このデータの利用については,ニュース レターNo.9 もごらんになってください.
●HARVARD(HARVARD大CMT地震カタログ)
 収録期間:1977/01/01〜2004/06/30  
 データ元:http://www.seismology.harvard.edu/projects/CMT/catalog/MONTHLY/
●ISC(ISC地震カタログ)
 収録期間:1964/01/01〜1999/12/31  
 データ元:ISC Catalogue 1964-1999 (CD- ROM)
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