目 次 


東南海・南海地震対策大綱の公表(阿部 勝征)

WINシステム用波形モニターツールの活用(鶴岡 弘)

EIC地震学ノート(山中 佳子)

最新地震カタログ情報(鶴岡 弘)

5年間の古地震記象の完了(野口 和子)

計算機の継続利用申請について(鷹野 澄)



 東南海・南海地震対策大綱の公表
 地震発生の30年確率が40%を超える東南海・南海地震について,国の中央防災会議は防災対策の強化に向けて地震対策の大綱を策定することにした(01年6月).それを受けて「東南海,南海地震等に関する専門調査会」が設けられた.名称の「等」には中部圏・近畿圏の内陸地震が含まれる.
 調査会は,「東海地震対策専門調査会」で行ったと同様に,過去の被害資料及び最近の学術的知見を踏まえて科学的な整理から被害想定のための地震動計算と津波計算をまず実施し,二つの地震が同時に発生した場合について被害想定の検討結果を02年9月に発表した.ゆれや液状化,津波,崖崩れ,火災により最悪の場合,建物の全壊は約64万棟,死者は約2万人,重傷者は約2万人にのぼる.震源域が海域にあることから,津波による人的被害が地震のゆれによる被害を上回るなど甚大な津波災害が予想される.住宅や企業施設の損壊などによる直接被害額は約43兆円,それと東西交通の寸断などによる間接被害を合わせた総被害額は約57兆円に達する.阪神・淡路大震災による直接被害は約10兆円と推計されており,単純に比較はできないが,今回の見積もりはそれを大きく上回る.被災地では発災から1日後の避難者数は約420万人にのぼり,食料は2日目より約480万食不足する.
 この報告を受けて,中央防災会議は防災対策のマスタープランとしての「大綱」を公表した(03年12月).大綱は,津波防災体制の確立,広域防災体制の確立,計画的かつ早急な予防対策の推進,二つの地震の時間差発生による災害の拡大防止などからなる.この大綱を踏まえて具体策が実施されていく.
 一方,03年7月には「東南海・南海地震に係わる地震防災対策の推進に関する特別措置法」が施行された.これに基づく地震防災対策推進地域の指定も審議の対象になった.第16回会合(03年12月)において,推進地域が決定され,同日の中央防災会議で了承された.推進地域とは,特別措置法第3条において,「東南海・南海地震が発生した場合に著しい地震災害が生ずるおそれがあるため,地震防災対策を推進する必要がある地域」と定められており,想定東海地震に対応した強化地域に準じるものである.基準としては震度6弱以上になる地域と3m以上の大津波に見舞われる地域などを対象とした.新たに指定された推進地域は,21都府県652市町村に及ぶ.三重,奈良,和歌山,徳島,高知は県内の全市町村が指定された.この指定地域には約3700万人が住み,日本の人口の約3割にあたる.
 2年半17回の長きに及んだ調査会であった.この間に地域の防災意識は大いに高まったようである.中央防災会議は次の目標に向けて,「首都直下地震対策専門調査会」と「日本海溝・千島海溝周辺海溝型地震に関する専門調査会」を立ち上げた.

 

WINシステム用波形モニターツールの活用

1.はじめに
 地震研究所では,衛星テレメタリングシステムの副局が維持・管理されており,大学・気象庁・防災科学技術研究所等で管理運営している地震観測点からの5000チャンネルを越える地震波形データがWINシステムによってリアルタイムに集配信されています.衛星からのデータはIPパケットとして所内の専用のネットワークセグメントに配信され,震源決定等の基礎データとして利用されています.これらの解析はハードディスク上に保存されたデータに対して行われてきましたが,今後地震波形のリアルタイムモニタリングの必要性が高まっていくと考えられています.そのためのツールとして今回,WINシステム用波形モニターツール(鶴岡・卜部,2002,2003)の活用方法について紹介します.これらのツールはIXPプロットライブラリ(鶴岡,2002)を利用しており,X, ポストスクリプト, PNG, JPGへの出力が可能であるので幅広く活用できます.ここでは,リアルタイム波形モニタリングについて紹介します.その他の活用の仕方についての詳細は鶴岡(2003)をご覧ください.

2.WINシステムによる波形データ
 まずは,ネットワークを流れる地震波形データがWINシステムによってどのようにディスクに保存されるかについて述べます.モニターツールを活用する上でこれらを把握しておくことは重要となります.衛星から配信されるデータはプログラム recvtによって共有メモリ11番に書き込まれます.この段階では必ずしも時間順にソートされていないので,プログラムorderで時間順に整列(バッファリング)させ,ソートされたデータを共有メモリ12番に書き込みます.最後に,プログラムwdiskによってハードディスクに1分ごとのファイルに分割されて特定のディレクトリ(/dat/raw)に保存されることになります.以下の図1はこの流れをまとめたものです.WINシステムでは,さらにディスク上に保存された波形データに対して自動検測,自動震源決定等が行われています.


図1.衛星からの地震波形データがディスクに保存されるまでのフロー.
3.WINシステム用波形モニターツールの特徴
 WINシステム用波形モニターツールは図1における共有メモリ11番や12番およびディスク上のWINフォーマットデータをテキストベースでデータ内容をダンプする既存のプログラム shmdump に波形モニター用の新たなフォーマット出力を機能拡張し,そのフォーマット出力を入力として波形表示するプログラム群(shmx,shmp,shmp1)から構成されています.このような機能分割によってプログラムの柔軟性・拡張性が高められています.
4.リアルタイム波形モニタリング
 ディスクに保存される波形データの表示は最大でリアルタイムより1分+orderのバッファリング時間だけ遅れるため,リアルタイム波形表示には共有メモリ中にある波形データを利用することが必須となります.まずは,時間順にデータがソートされて共有メモリ12番に書き込まれた波形データをモニターする手順について説明します.ツールとしては shmdump,shmp(単一チャネル),shmp1(マルチチャネル)を利用します.
・単一チャネルモニター
チャネルID=0252のデータをモニターする場合は以下のコマンドを実行します.
% shmdump -tq 12 0252 | shmp 0252 -m1 -n60
出力結果の様子を図2に示します.1トレース1分のデータが60行表示され,1時間の波形モニターとなっています.

図2.単一チャネルモニター出力例.
・マルチチャネルモニター
 % shmdump -tq 12 0252 0253 0254 ... | shmp1 0252 0253 0254 ... -m10
出力結果の様子を図3に示します.単一・マルチチャネルとも1トレースの表示時間はオプションを指定することで設定が可能です.また豊富なオプション群により柔軟なカスタマイズができるようになっています.

図3.マルチチャネルモニター出力例.
 

 よりリアルタイム表示を求める場合には共有メモリ11番に書き込まれている波形データを利用する必要があり,そのためのツールとしてshmxがあります.shmxはwishというスクリプト言語で作成されたプログラムであるためshmp,shmp1よりもCPUの負荷が高いのですが,よりリアルタイム表示が求められる場合に活用できます.利用には同様にshmdump と組み合わせて使用することになります.

5. おわりに
 WINフォーマットデータをテキストベースでデータ内容をダンプするプログラム shmdump には,フィルター(ハイパス,バンドパス,ローパス)をかける機能があり,これらとshmp,shmp1を組み合わせるといろいろな現象を見ることが可能です.今後は波形データのモニタリングが重要となるはずです.本ツールを有効に利用して新しい現象を発見しましょう.

【文献】
・鶴岡 弘,2002,Webに適したプロットライブラリの改良,震研技報,No. 8,46-49.
・鶴岡 弘・卜部 卓,2002,WINシステム用波形モニターツールの開発,地震学会講演予稿集,2,P089
・鶴岡 弘・卜部 卓,2003,WINシステム用波形モニターツールの開発(2),地球惑星科学合同大会,S048
・WINシステム http://eoc.eri.u-tokyo.ac.jp/WIN/
・鶴岡 弘,2003,WINシステム用波形モニターツールの活用,震研技報,No. 9,14-19.
・SHMX http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/tsuru/shmx/
          (今回紹介したツールはここからダウンロード可能です.)


 


EIC地震学ノート No.145

◆遠地実体波解析◆---------------------------------------
12月26日イランの地震(Ms6.7)
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概略・特徴: 
 12月26日1時56分(UT)にイラン南東部ケルマン州で Ms6.7の地震が発生しました。バムでは建物の80%が崩壊したということです. この地震で倒壊した家屋の下敷きになるなどして約4万人以上が死亡,約3万 人が負傷したと言われています.
 USGSによる速報震源は次の通りです.
発生時刻
震央 
深さ
M
03/12/26 01:56 (UT)
29.00°N 58.30°E
normal
6.7

●データ処理:
 IRIS-DMCから収集した広帯域地震計記録(P波上下動26,SH波10) を用いて解析しました.
●結果: 
 結果を図1に示します。
 主な震源パラメータは次のとおりです.

走向、傾斜、すべり角 (175, 85, 153)
地震モーメント Mo = 7.6 x10**18 Nm (Mw = 6.5)
破壊継続時間(主破壊) T = 13 s
深さ H = 4 km
断層面積 S = 20 km x 15 km
食い違い Dmax = 1.0 m
応力降下 Δσ = 3.7 MPa
●解釈その他:
  この付近にはほぼ南北の走向をもつ右横ずれの 活断層が何本も走っています(図2).今回はそのうちのバム断層が動いた とされています.耐震性のない建物が多かったことの他に,震源が浅かったことも被害を大きくしていると思われます.

図1.解析結果

 図2.USGSによる余震分布と活断層マップ (USGS HPに一部加筆)


 

最新地震カタログ情報
http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/db/index-j.htmlで利用できる地震カタログ
の最新情報です.

●JUNEC(全国地震観測網地震カタログ) 
収録期間:1985/07/01〜1998/12/31  
データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/pub/data/junec/hypo/

●NIED(防災科学技術研究所地震カタログ)  
収録期間:1979/07/01〜2003/06/30  
データ元:http://www.bosai.go.jp/center/kanto-tokai/data/index.html

●JMA(気象庁地震カタログ)  
収録期間:1926/01/01〜1997/09/30  
データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/pub/data/jma/geppo/

●JMA(気象庁一元化震源データ)
収録期間:1923/10/01〜2003/10/31  
データ元:ftp://ftp.eri.u-tokyo.ac.jp/pub/data/jma/mirror/JMA_HYP/ 
*このデータの利用については,ニュース レターNo.9 もごらんになってください.

●HARVARD(HARVARD大CMT地震カタログ)  
収録期間:1977/01/01〜2003/09/30  
データ元:http://www.seismology.harvard.edu/projects/CMT/catalog/MONTHLY/

●ISC(ISC地震カタログ)
収録期間:1964/01/01〜1998/12/31  
データ元:ISC Catalogue 1964-1998 (CD- ROM)

システムおよびデータに関する質問・要望等はtsuru@eri.u-tokyo.ac.jp までお願いします.

 

 
 1998年12月,古地震記象委員会の発足後, 明治初期から昭和26年の期間までの機械式地震計の地震記象紙約110年間分(約30万枚)の調査,整理が完了した.その内容(地震計型・日付・時間)は不明な点が多くあったが,技術報告に10編(うち1編は技術報告10号に投稿予定)を著した.記象紙のフィルム化は約20万枚を越えた.整理後の現在は記象紙のデ−タをWeb上で検索可能となりフィルムからコピーができる.
URLはhttp://kiwi.eri.u-tokyo.ac.jp/susu/です.
是非ご利用下さい.


計算機の継続利用申請について
 平成16年度のEIC共同利用計算機システムの継続利用申請を受付けます。引き続きご利用される方は、下記のホームページから継続申請をお願いします。
    http://wwweic.eri.u-tokyo.ac.jp/computer/
 なお、地震研究所の職員の方は自動継続となりますので、継続申請は不要です。学生の方は継続利用申請をしていない場合、4月から利用できなくなりますのでご注意下さい。