NEWS LETTER No.23 |
目次 想定東海地震の近況 阿部勝征 強震ネット自治体担当者と研究者の集い(山中 佳子・菊池 正幸) EIC地震学ノートより抜粋(菊地 正幸・山中 佳子) 並列計算いろは その8(桧山 澄子) |
毎年のことであるが,9月1日に国の総合防災訓練が実施された.それに因んで想定東海地震に関わる行政界と自然界の最近の動向を紹介したい . 中央防災会議は2001年1月に,大規模地震対策特別措置法による地震防災対策強化地域の指定について見直すことを決定した.それを受けて「東海地震に関する専門調査会」は1944年東南海地震の未破壊領域を想定震源域に設定し,最近の科学的な知見を見直しに反映させることにした.20年間の知見として,地震観測からプレートの形状や固着域の存在などが明らかになり想定東海地震の発生機構に関して理解が進んだこと,GPS観測からプレート間のカップリング状態に関して解析が進んだこと,地震波や津波の解析から1944年東南海地震の震源域が詳細に推定できるようになってきたこと,海底地殻構造の詳細が明らかになってきたことなどがあげられる. 専門調査会は会合を重ね,6月に最新の科学的な知見に基づく想定震源域を中間報告として発表した.新しい震源域はナス形で,従来の国土庁モデルよりも西方へ広がり,面積は6割ほど増加した.現在はこの断層モデルに基づいて各地のゆれの強さや津波の高さなどの計算を行っている.今後は計算結果をもとに強化地域の再指定へと話が進む.毎回白熱した議論から,想定東海地震については東南海・南海地震との同時発生の可能性を10年程度後に再検討すること,東南海・南海地震についても新たに専門調査会を立ち上げることになった. 一方,自然界にも動きがある.7月に国土地理院は,静岡県西部から岐阜県南部にかけてのGPS観測データに微小な地殻変動が進行中であると発表した.広域にわたって観測点が南東方向へ1cmほど移動していたのである.8月に入ってもこの動きは継続している.始まりははっきりしないが,前年あった伊豆諸島の地殻活動の前後ともいわれている.別の地域で発生した類似のケースではプレート境界面のゆっくりとしたすべりによるものと解釈されている.今回の異常変動はしばらくして終わるかもしれないし,本当のプレスリップの兆しかもしれない.変化量は体積ひずみ計の検知能力の100分の1以下である.動きは小さいが,場所が場所だけに気の抜けない「観測情報」が出たと個人的には心している. 注.「観測情報」とは,東海地震に関連して,判定会招集には至っていないが,推移を見守る必要が生じたときに気象庁が発表する情報.まだ発表されたことがない. |
強震ネット自治体担当者と研究者の集い 前回のニュースレター(No.22)でお知らせしましたように、自治体等の協力の下に『首都圏強震動総合ネットワークシステム』が稼働を開始しました。またこれを機会に、各自治体の担当者と研究者の集い:「首都圏強震計ネット担当者の会」を7月18日に開きました。自治体関係者8名、研究者13名が参加しました。前半では4名の方に話題提供していただき、後半では自治体の方とざっくばらんに討論しました。そのときの模様を簡単にメモしておきます。 今後ともこのような会を年に1〜2回程度開いていきたいと思っています。 第1回首都圏強震計データ担当者の会 メモ 日時:平成13年7月18日(水)15:00〜17:30 場所 地震研究所講義室 話題提供: (1) 「首都圏強震計ネットワークシステム」の 紹介 鷹野 澄(東大地震研) ・本システムのデータベースとホームページの具体的 な紹介 (2) 地震波動伝播と強震動シミュレーションの例 古村孝志(東大地震研) ・複雑な地下構造を持つ関東平野を横切る波動伝播シ ミュレーションとその可視化 (3) 震度情報アンケートの活用・効果 翠川三郎(東工大) ・横浜市におけるインターネットやiモードによる震 度アンケートの例。震度情報に関する国民の認識を 高めることの重要性。 (4) リアルタイム情報伝達システムと地震被害収集システム 久田 嘉章(工学院大学)・大井 昌弘(防災科技研) ・ROSE(Real-time Operation System for Earthquakes) の紹介と自治体との連携の必要性 討論: データ公開について 大学等の研究機関へのデータ提供は問題ないが、インターネットでの情報公開に関しては、万が一ミス等で損失を被った人が現れた場合の責任を危惧する。また、時刻が正確でない場合もあり、果たして研究に使えるかどうか心配との声もあった。研究者側からは、時刻の精度等が重要でない場合もあるので、ぜひデータを使わせて欲しいとの意見があった。 震度情報について 震度情報として正式に発表するには設置する計測震度計を気象庁に検定してもらう必要があり、コストもかかる。自治体としては住民を安心させるには多くの場所での震度情報が必要であるので、できるだけコストのかからないシステムで必要な情報を得る努力をしている。また災害時にできるだけ早く情報が入手できるよう情報収集システムの改良を行っている自治体もあった。 システムの維持・管理など システムの維持管理、機器の更新などにはお金がかかり、自治体の財政を考えると不安があるところもある。また自治体によっては独自でデータ公開を行うことを考えているところもあった。 ベトナムの地震観測の現状 8月21日から10日間にわたってIAGA-IASPEIの国際学会がベトナム・ハノイで開かれました。情報センターからは菊地と山中が参加しそれぞれ発表してきました。 この機会にHanoi Institute of Geophysics, National Center for Natural Sciences and Technology of Vietnamを見学しました。 ベトナムでは中国国境の北部山岳部を除くとほとんど地震がなく、観測網も北部に集中し、南部では約300km間隔でしか地震観測点がありません。ベトナムが設置している地震計はすべて高感度地震計です。そのほかに東大地震研海半球観測研究センターと共同でおいた広帯域地震計が1台と、台湾が臨時でおいた広帯域地震計2台があるそうです。高感度のデータはテレメータされていて、windows上で動くシステムでフェイズを読みとったり震源を決めたりしています。 今年に入ってM5以上の地震はわずかに1個、日ごろはM3以下の地震がほとんどという大変静かなところです。しかし地質学的調査によるとハノイを通る紅河に沿って活断層が走り、M7クラスの地震発生の可能性があるとのことです。
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21世紀初のM8地震が起こりました。今回はこの地震を取り上げます。 EIC地震学ノート No.105 遠地実体波解析 ------------------------------------------------------------------ 2001年6月23日ペルーの地震(M 8.4) ●概略・特徴:23日午後3時33分(現地時間)ペルーのアレキパの西約200kmを震源とする大地震が起こりました。現地では死者約70名を含む大きな被害が出た模様です。また、気象庁は日本に津波が来る可能性があるかどうか資料を集めて検討中とのTV報道がありました。USGSの震源は次の通りです。 発生時刻 震央 深さ M 20:33:14(UT) 16.14°S 73.31°W 8km 8.4 ●データ処理:IRIS-DMCから24点の広帯域実体波(P波上下動)記録を収集しました。継続時間が2分ほどの複雑な波形です。後半に大きなパルスが見られます。アスペリティ(大きな断層すべり)は震源からかなり離れたところにありそうです。初めに、点震源を仮定してメカニズム解を求めました。北東南西圧縮の逆断層解が得られました。次いで、低角面を断層面とみなして、断層すべりの時空間分布を求めました。 ●結果:図1に震源過程、図2に波形、図3に地図上に投影した断層滑り分布を示します。主な震源パラメーターは以下の通りです。 初期破壊点 震央: 16.14°S 73.31°W 深さ H0 = 30 km (走向、傾斜、すべり角)=(309, 21, 61) 地震モーメント Mo = 2.2x10**21 Nm (Mw = 8.2) 破壊継続時間 T = 107 s 断層面積 S = 200x100 km**2 食い違い D max = 4.5 m D mean = Mo /μS = 2.8 m (μ= 40GPa) 応力降下 Δσ = 2.5 Mo/ S**1.5 = 1.9 MPa ●解釈その他:21世紀最初のMw8を超える地震です。海洋プレート(ナスカプレート)が陸のプレート(南米プレート)に潜り込む、プレート境界の地震と思われます。震源から150kmほど南にアスペリティの目玉が来ることから、被害も震源のかなり南側に集中していることが予想されます。 <<関連ノート>> 1996年11月12日に、今回の地震の北側で大きな地震がありました(EICノートNo.7参照)。図3はその地震の断層滑り分布です。 |
地震研の入り口で ウイルス駆除開始 今年の夏は、Sircam型ウイルスが世界中で猛威を振るいました。東大でも7月から被害が拡大しました。このため、遅ればせながら8月23日から地震研の入り口で、メール中のウイルスを駆除するInterScan VirusWallというソフトを試験的に導入しました。9月は1日15件〜70件のウイルスが検出され、そのほとんどがSircam型ウイルスでした。(K.T.) |