EICニュースレターNo.17


本号の目次
◇ 2000年有珠山噴火(阿部 勝征)  
◇ 並列計算いろは(その4) (檜山 澄子)
◇ 新種のウィルスにご注意(鷹野 澄)
◇ EIC地震学ノート(菊地 正幸・山中 佳子)
◇ eic(SGI Origin 2000)計算機利用状況(鷹野 澄)
◇ 「EIC計算機システムの利用法」講習会日程のお知らせ(鶴岡 弘)


北海道の有珠山は3月31日より北西側山麓で噴火を始めた.噴煙は最高3200mの高さまで上昇した.噴火による人的被害は無かった.多発した地震のうちで最大の規模は4月1日のM4.6である.その後も断続的に水蒸気爆発もしくは弱いマグマ水蒸気爆発を繰り返し,多数の爆裂火口を作りながら噴石や噴煙を放出した.4月3日ごろから,西山西側に断層群が出現し,周辺一帯の隆起が目だち始めた.5月末までに隆起量は最大60mに達した.有珠山噴火は23年ぶりである.

 有珠山では,3月27日から火山性地震が急増した.28日に,室蘭地方気象台は火山観測情報1号を発表し,「噴火した場合には雪解けにより、泥流などが発生する恐れがある」として警戒を呼びかけた.これに応じて,虻田町や壮瞥町,伊達市の地元自治体は一部地域の住民に自主避難を促した.29日には,火山噴火予知連絡会拡大幹事会は「数日以内に噴火する可能性が高くなった」との見解を発表し,それを受けて気象台は緊急火山情報1号を発表した.これにより自治体は災害対策基本法に基づいて避難勧告,避難指示を相次いで出した.噴火前に約1万6千人の住民が避難した.そのうちの約5千人は避難所で生活を強いられている.
 
 噴火前に警報に当たる緊急火山情報が発表され,住民の避難が完了したことはこれまでで初めてのケースである.これは有珠山だからこそ可能であったとはいえ,火山噴火予知計画や火山防災の歴史のなかで画期的な出来事である.しかし,それはそれとして,噴火開始後の火山活動の推移を予知することは依然として難しい.今後の可能性については選択枝がいくつもあり,予断を許さない.
 
 思い返すに,23年前の噴火では,住民のパニックを恐れて熱雲の可能性を発表することはタブーであったし,洞爺湖温泉などを抱えた観光地に対して事前にハザードマップを作ることは不可能であった.噴火予知連は既知連だとか無知連だとやゆされることもあった.今回の噴火では,研究者は火砕流の可能性を率直に指摘したし,自治体はハザードマップを避難対象地域の選定に役立たせた.防災意識の変遷に時の流れを感じる.[阿部勝征]

                          有珠山噴火(中田節也教授撮影)


並列計算いろは(その4)

今回からいよいよOpenMP文をプログラムに書いて,並列化する話をしましょう.OpenMPは1997年に言語仕様が制定され,現在のバージョンはOpenMP1.1です.今日では,共有メモリ型に限らず,分散メモリ型システムのコンパイラでも,このOpenMPが使えるようになって来ています.OpenMPの詳細は英語版は

http://www.openmp.org

日本語版は

http://pdplab.trc.rwcp.or.jp/Omni/spec.ja/

で調べることができます.

さていよいよ本論です.並列計算いろは(その2)で使った行列の掛け算をするサブルーチンプログラム,mul.fをf77 -O3 -apo keep -c mul.f でコンパイルして,その結果得られたmul.mファイルをながめてみましょう.

(並列計算いろは(その2)プログラム 3 mul.m参照.)そのときの説明では,「自動並列化オプション-apoを入れてコンパイルすると,コンパイラがプログラムを解析し,並列化できるところにOpenMP文を入れる」と述べました.プログラム3では2行目,3行目の

C$OMP PARALLEL DO @
C$OMP& private(j,i,k),shared(a,b,n,m,c) A


がOpenMP文です.このC$OMP の接頭語で始まるのが,OpenMPのステートメントです. ついでに述べておくと,C言語のOpenMP文は#pragma ompで始まります.プログラムが固定形式か,自由形式で書かれたものかによって接頭語が違います.固定形式の場合には,この他にも!$OMP,*$OMPなどの接頭語も使えます.第1カラムから始まり,第6カラム目はブランクか0(ゼロ)でなければならないのはFortran文の場合と同じです.自由形式の場合の接頭語は!$OMPだけです.大文字・小文字どちらで書いてもかまいません.これ以降の説明では,C$OMPを使います.1行に書ききれない場合は,上記AのC$OMP&のようにC$OMPに続いて,第6カラム目に空白または0(ゼロ)以外の文字を書きます.

 @にあるデレクティブはParalell Do デレクティブと呼ばれるもので,もっとも簡単でしかも良く使われる代表的なOpenMP文の一つです.

 この場合の構文形式は以下のようになります.

C$OMP PARALLEL DO [記述子並び」
       do ループ
[C$OMP END PARALLEL DO ]

これは「直後のdo ループを並列化しなさい」という指示を与えるものです.上記のうちEND PARALLEL DOは省略できます.省略されていれば,do ループの終端が
END PARALLEL DOであるとみなします.具体例はたとえば次のような形になります.

例1
 C$OMP PARALLEL DO
do i=1,10000
a(i)=2*b(i)
end do
C$OMP END PARALLEL DO ←このステートメントは省略可
(つづく その5)


新種のウィルスにご注意
今年の5月の連休中に,ラブレター・ウィルスが世界中を駆け巡ったかと思ったら,それよりさらに危険な新種のウィルスが出回っているとの情報が新聞に載りました.これらのウイルスは,電子メールの中の添付ファイルとして送られるのが特徴です.

この添付ファイルを開かずにごみ箱に捨てれば何も起こらないのですが,これを「何だろう?」とつい開いてしまうと,・・・もう手遅れです!Microsoft Outlookを使っている場合は,過去にメールのやり取りのあった人のアドレス宛てにウィルスが勝手にメールで配信され,さらにWindowsのファイルをすべて破壊してシステムが二度と起動できなくなるそうです.

これまでのウイルスは,たいていはパソコンに感染して居残り,本人の気づかないうちに,ファイルの授受を介して周りに伝染するというものがほとんどでした.それに対して,今回のラブレターウィルスやその類型(すでに数十種あると言われている!)は被害が甚大であるというのが特徴です.

このようなウィルスに対する一般的な対策は,

(1)不審な「添付ファイル」は絶対に開けない.特に「VBS」の拡張子がついたファイルが添付されていたら絶対に開けないこと.

(2)不審な「添付ファイル」はディスクに残さずにごみ箱に捨て,さらにごみ箱を空にして完全に削除することです.なおその他に

(3)メールを送る際には、むやみに「添付ファイル」を使わない。

ということにも注意した方がいいでしょう.
今回のウィルスについてのより詳細な対策は,IPAセキュリティセンターの

http://www.ipa.go.jp/security/topics/vbs-loveletter.htm

をご覧ください.またアンチウィルスを販売しているトレンドマイクロ社の

http://www.trendmicro.co.jp/virusinfo/loveletter.htm

http://www.trendmicro.co.jp/

やシマンテック社の

http://www.symantec.com/region/jp/sarcj/data/v/vbslovelettera.html

なども参考になるでしょう.


EIC地震学ノートより抜粋

最近起こった地震の中からとくに興味ある地震を2つ取り上げます。

EIC地震学ノート No.75    Mar.29, '00
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2000年3月28日父島近海の稍深発地震
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 概略・特徴:3月28日夜、父島近海の深さ100km余を震源とする大地震(気象庁マグニチュード7.3)がありました。この地震で小笠原で震度3を記録したほか、関東・東北にかけて有感でした。USGSによる速報震源は次の通りです。
           
発生時刻 震央 深さ Mw
11:00:21(UT) 22.41°N 143.59°E 104 km 7.6

 

データ処理:IRIS-DMCから収集した20地点の広帯域地震計記録(P波上下動)を用いました。観測点の方位分布は良好です。

結果:図1に示します。主な震源パラメータは次のとおりです。
 走向、傾斜、すべり角=(295,89,88)/(170,2,146)
 地震モーメントMo=2.4 x10**20 Nm (Mw = 7.5)
破壊継続時間 T=13 s
断層長(2.5km/s,10sの双方向破壊を仮定)=50km
断層面積(幅W=L/2を仮定)S = LxW = 50kmx25km
食い違い   D = Mo / μS = 3.1m (μ=64GPa)
応力降下  Δσ = 2.5 Mo/ S**1.5 = 8.0 MPa

解釈他:プレート内Down-dip extensionの地震です。鉛直面縦ずれ断層、または、水平断層のいずれかです。1993年1月15日の釧路沖地震(Mw7.5)と、メカニズム解、深さ、規模の点で、似ています。釧路沖地震の場合は水平断層でした。どちらが断層面であるかは、プレート間カップリングの影響を調べる上で興味があります。
EIC地震学ノート No.76      Apr.6, '00
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     4月1日有珠山周辺の地震
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概略・特徴:4月1日未明、有珠山近傍でごく浅い地震がありました。今回の有珠山噴火に関連した地震の中で最大規模です。壮瞥温泉に設置された気象庁の臨時観測点(計測震度計)で震度5弱を観測しました。気象庁の速報震源は次の通りです。
                      
震源時刻 震央 深さ
03:12:23.2(JT) 42.505°N 140.829°E  7km 

データ処理:2観測点(FreesiaのHSS(札幌)およびERIOSのKKJ(上ノ国))の広帯域地震計記録を収集し、変位波形に変換しました。

結果:図2に示します。主な震源パラメータは次のとおりです。
 走向、傾斜、すべり角= (197, 43, 62)
 地震モーメントMo=1.5 x10**16 Nm (Mw = 4.7)
 破壊継続時間(主破壊)T=0.8 s
 深さ         H=5 km
 断層長(2.5km/s,0.4sの双方向破壊を仮定)L=2km
 断層面積 (幅W=L/2を仮定) S=LxW=2kmx1km
 食い違い    D=Mo/μS=0.25m (μ=3.1GPa)
 応力降下    Δσ=2.5 Mo/ S**1.5=14 MPa

解釈他:北西-南東圧縮の逆断層が得られました。等方成分を含む一般的なモーメントテンソル解を求めると、体積収縮成分を40%ほど含む解が得られますが有意とは言えません。
 また、マグマの熱で岩石強度が弱くなり応力降下が小さくなるのではないかと考えましたが、得られた応力降下は通常の地震と同程度でした。少なくともこの地震の発生場所・発生時点では、岩盤は脆性的であったことを示唆しています。


eic(SGI Origin 2000)計算機利用状況


昨年の3月より利用開始したSGI Origin 2000計算機の約1年間の利用状況をお知らせします.

CPUの利用状況を,月別に図1に示します.ここで,太線が SGI Origin 2000で,細線は前年の CRAY CS6400です.前年に比べ毎月のCPU利用時間はやや増加していますが,CPU1台当たりの処理能力は5倍以上に向上していますので,前年の5倍以上の処理量をこなしたことになります.

図1の点線は,毎月のOrigin 2000のCPU使用率50%を示しています.これから,昨年は毎月30〜50%のCPU利用率であったことがわかります.この値は,初年度のCPU利用率としてはまずまずです.今後の需要増にも十分応えられるでしょう.一方,グラフにはありませんが,実メモリの使用率は,ピーク時で90%に達しております.今後実メモリ不足による処理効率の低下が心配です.




eicの登録ユーザー数は,約450名(2000年3月末現在)です.そのうちOrigin 2000を1回以上利用した実利用者数を図2に示します.図2の下の線は,月に100時間以上利用するパワーユーザの数です.これを見ると,パワーユーザは若干増加していますが,実利用者の数は,(9月と11月の落ち込みを除くと)一昨年と同じくらいであったようです.
ChartObject 月別実利用者数


「EIC計算機システムの利用法」講習会日程のお知らせ
情報センターでは,初心者向けコース(5月18日実施)をはじめとして,EIC計算機システムを効果的・効率的に利用するための講習会を予定しています.多くの方のご参加をお待ちしています.

1)初心者向けコース
内容:EICの使い方,とくに自動並列化の利用法やバッ
チジョブの投入法,コンパイラーライブラリの
利用法などを説明します.
日時:5月18日(木) 14:00〜17:00
場所:講義室.

2)MATLAB(数値計算)コース
内容:MATLABで何ができるか,どう使うのかなどを実
習をしながら学びます.
日時:6月8日(木) 13:30〜17:00
場所:講義室(講義)と504,510号室(実習)

3)ANSYS(有限要素法)コース
内容:ANSYSとは何か,どう使うのか.実習をしながら
学びます.
日時:6月15日(木)13:30〜17:00
場所:講義室 (講義),504号室(実習)

4)中級者向けコース
内容:並列化とはなにか,並列化できないとはどうい
うときか,並列化するためのOpenMPの基本的な
使い方,書き方,並列化のパフォーマンスの調べ
方について例をあげながら説明します.
日時:7月6日(木)14:00−17:00
場所:講義室