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強震計とIT強震計研究会のご案内〜
2007/08/17(旧版最終版)
東京大学地震研究所 地震予知情報センター 鷹野澄 |
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大地震による災害を軽減する為には、小さな地震の時に私たちの住宅や会社、学校など、身近な場所が実際にどのように揺れるのかを
調べて、その弱点を探り、効果的な耐震対策をすることが有効と考えられます.IT
強震計は、このような目的で利用者自身が設置して利用する新しいタイプの安価な強震計として考案されました.
IT強震計の利用者は、企業や学校、一般住民などです.利用者が、建物や 構造物などの調べたい場所にIT強震計を設置して、小さな地震のユレを実際に計測して、そのユレの特徴を調べることを目的としています.単 に調べるだけでなく、建物や構造物などの弱点を探って、効果的な耐震補強を行ったり、耐震補強の前と後でのユレを比較して、計算どおりの補強ができている か確認するなど、様々な活用が期待されます. |
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図1 IT強震計の利用 |
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IT強震計で観測されたユレの情報は、図1に示すように、インターネット経由で、地域の防災情報センターにリアルタイムで情報提
供されます.センターでは多数の観測点から収集した情報をもとに、周辺のユ
レの情報を求めて利用者
に送り返します.この仕組みにより、単独で使った場合に比べてより多くの情報が得られ、建物などの弱点を探るのが容易になるという訳です. IT強震計のもう一つの特徴は、防災情報端末としての利用で す.IT強震計は、地域の防災情報センターと常に情報交換をしていますので、センターを経由 して様々な防災情報を入手できます.全国の地震の情報や、気象庁が出す警 報・注意報などもセンター経由で迅速に入手できます.利用者は自分のパソコンから IT強震計にアクセスするだけで、自分の観測したデータだけでなく、最新の防災情報が入手可能となるのです. |
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@地域の防災センターとの連携機能 IT強震計の最大の特徴は、今や家庭に広く普及した常
時接続のインターネットに接続して、地域の防災情報センターと常に情報の交換をしている、というと
ころにあります.地域の防災情報センターには、地域内の利用者が設置したIT強震計からのユレの情報が自動的に収集されますので、それを解析処理して、地
域内の平均的なユレの情報を利用者に提供することができます.また、さらに利用者個々の波形データを専門的に詳しく解析することにより、利
用者に有用な情
報をフィードバックすることができます.利用者はフィードバックされた情報を利用して、耐震補強などの適切な対応を取ることが容易になります. A日常的な防災情報の提供機能 IT強震計の2番目の特徴は、地域の防災情報センターを経由して、様々な防災情報を入手できるところにあります.IT強震計は日常的
に防災情報センター
と情報の交換をしていますので、その機能を使って、防災情報センター経由で、全
国の地震の情報や津波注意報、警報などを迅速に入手することができます.こ
の利用の為にIT強震計は、情報提供サーバ機能を持っています.利用者は、自分のパソコンから自分が設置したIT強震計にアクセスするだけで、最新の防災
情報を入手することができるようになります. B大地震の際には、・・・ 不幸にして大地震が襲った場合には、IT強震計の高密度なネットワークを活用することにより、強いユレの地域をいち早く把握し、初動 対応に役立たせることができます.またIT強震計の設置してある学校や公民館、病院などの被災状況を推定し、適切な避難誘導に役立たせることができます. もし停電になってもIT強震計はバッテリーを内蔵していますので、計測を続けることができます.ネットワークが生きていれば、情報を提供し続けることが可 能ですし、ネットワークが切れた場合でも、IT強震計は内部に長時間の記憶装置を有するので、大事な強震動の記録を保存しておくことができます.万が一建 物が倒壊した場合でも、IT強震計をある程度丈夫に作っておけば、倒壊時の貴重な記録を残すこともできます. C様々な場所に設置可能 IT強震計は、なるべく簡単に設置できるように考えられています.例えばIT強震計は、GPS時計を使わずにネットワークからNTP
(Network Time Protocol)で正確な
時刻を入手していま
す.従って、LANと電源が届くところであれば、地下深いところからビルの最上階まで、様々な場所に設置することができます. |
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私たちはまず、既存のパーツを組み合わせて最初の試作機を作りました.それが、次の図2です.サイズは縦横23cm程度、高さ
7cm程度です.こ
の中に、加速度センサーとAD装置、UNIXが搭載可能なPCボード(マイクロサーバ)、バッテリーと無停電電源回路などが入っています.加速度センサー
は、大地震のユレも記録できる性能のものを採用しています.AD変換も24ビット100サンプル/秒で行っています.マイクロサーバ上では、
データの収集だけでなく、簡易震度の計算などの波形処理を行っています.また、情報提供機能を実現するWEBサーバが動いています.
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図2 IT強震計(試作機) |
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最初の試作機は、既存の安価な製品を組み合わせただけであるため、1台の費用はまだ50万円以上もします.しかし、それでも従来の 強震計に比べるとだいぶ安価に製作できました。今後は量産モデルを設計して、もっともっと安価な普及型IT強震計の 実現を目指します.当面の目標価格は20万円程度で、この価格帯であれば、公共の建物などに多数設置することが可能になるでしょう.さらにその次の目標と し て10万円以下を目指しています.これくらいの価格帯になれば、一般家庭でも利用可能になるのではと考えています. | ||||||
4.建物用IT強震計システム (2005 年10月発表予定)
IT強震計を設置する場所の中には、学校やオフィースのビル、デパート、道路や鉄道の橋げたなど比較的大型の建物や構造物があり
ます.このような大型の建物では、建物内に多数のIT強震計を設置して利用することが想定されますが、その場合、個々のIT強震計のサーバ機能は必要な
く、多数の強震センサーに対して1台のサーバがあれば十分です.
そこで我々は、強震センサー部を切り離してLAN接続型の独立装置にした「IT強震センサー(ITK Sensor)」を開発することにしました.最近のビルには構内LANが張られているので、LAN接続型にすれば、センサーの設置も容易となります.この ITK Sensorを建物内の要所要所に設置し、データをサーバPC(ITK Server)に集めて同時に処理可能にしたのが、建物用IT強震計システム(図3)です. |
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図3a 建物用IT強震計システム(多数のITK Sensorによる同時測定) 図3b 建物用IT強震計システム(ITK Serverによるリアルタイム表示) |
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今回試作した ITK
Sensorは、最初から基板を製作したもので、もし量販するならば、1台20万円にすることが可能です.ただし現在まだ改良中で、今後、
ネットワークか
ら電源入力可能にしたり、外部に高性能の強震センサーを接続可能にする予定です. 図3a のITK Sensorは、図2のIT強震計と同様に、GPS時計を使わずにネットワークからNTPで正確な 時刻を入手しています.このためITK Sensorも、LANさえあれば、建物の地下から最上階までどこでも設置可能です. 一方、図3aのITK Serverとしては、UNIX搭載のPCであれば何でもよく、我々は安価な小型PCを使って構築しています.サーバのソフトウェアの負荷 は軽いので、低消費電力のマイクロサーバでも大丈夫です.サーバの情報提供は、標準のWEBサーバが利用可能で、図3bのようなリアルタイム表示には、ク ライアントにダウンロードしたJAVAアプレットを利用しています. |
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IT強震計の普及のためには、IT強震計の低価格化以外にも、まだ解決しなければならない以下のような問題があります.
@IT強震計の標準化の組織作り
IT強震計は誰でも購入できて簡単に設置することが可能ですが、そのためには、どのメーカが作成しても同じように使えることが必
要です.これを実現する
のが、IT強震計の標準化です.インターネットの上で利用される装置は常に進化しています.IT強震計も時代とともに
進化する必要があるでしょう.そのためには、新しい技術にもとづいて常に新しい標
準化を進める組織が重要です.私
たちは、利用者やメーカーなどが会員となった標準化組織としてIT強震計研究会(仮称)を作るのがいいのではないかと考えています.
A地域の防災情報センターのネットワークの実現
IT強震計は、地域の防災情報センターと接続することにより活かされます.地域の防災情報センターは、必要に応じて草の根的に作られ ることになるでしょう.しかし、それらがそれぞれ独立に運用されていたのでは、狭い範囲でしか情報が得られずに、あまりメリットはありません.IT強震計 の地域防災情報センターは、互いに相互接続したネットワークを形成する必 要があるのです.このセンター間の相互連携機能は、IT強震計の有用性を高める重要なポイントとなります.この課題についても、IT強震計研究会で取組ん でいく必要があると考えています. |
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IT強震計はまだ生まれたばかりです.これを発展させるために、このたび、IT強震計研究会(仮称)を発足させて、共同研究に参 加いただく研究者を募りたいと思います. 研究会のテーマとしては、まず、 ただし、これらを一度に始めるのは大変ですので、まず最初は、(1)からはじめて、ある程度進んでから、(2)と(3)に
も取組み
たいと考えています.また、今のところ、まとまった研究資金はありませんので、学会のように、参加者の手弁当で
ご参加頂くことになりますのでご了承下さい. 研究会の参加者として想定しているのは、大学や研究所の研究
者、地震計メーカーや通信業者などの研究者、土木や建築などの企業の研究
者、その他の協力いただける企業や団体などの方々です.ご参加ご希望の方は、「IT
強震計研究会のページ」の方にて申し込みを受付けていますので、下記からお進みください. IT強震計が、地震に強い安全な街づくりに貢献できるように、関係各位のご支援とご協力をお願いします.
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IT強震計やIT強震計研究会についてのご質問、お問合せは、[こ
ちらのフォーム]からお願いします.
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